買取の結びつき

そして以後何年も経過した現在に至っても、その時の新商品候補は、今だに一般市場にデビューしていない。
ある意味においては″頭の企画″の敗北事例としての在庫の山だったかも知れない。 同社における同様の実例をもう一つ紹介しよう。
ヨーロッパにおいて大ヒットした、ある″缶切り″の販売企画会議でのヒトコマである。 「これは、単なる缶切りではない。
発想を広げて拡販に当たっていただきたい。 缶切りで遊ぶ感覚でアピールする。
ヨーロッパではすでに○○万個売れた商品であってウンヌン。 だからヒット間違いなしである」と、担当責任者の強烈で自信あるお言葉。
そして「何か質問は?」ときた。 参加各部署の部課長は一斉に目を伏せ、シーンと何やら妙な静けさがあたりをおおった。
私はとっさに手を上げ、素朴な点を伺った。 「まことに素人的なご質問を一つニつ。

まず、日本の一般家庭での缶詰消費量は、外国と比べて圧倒的に少ないのでは?とすると、数千円する缶切りを購入する気はその分少ないはずで、当然、販売見込み数を外国より抑えるべきと考えます」 「さらに、缶切りで遊ぶという発想は、いま一つ理解できません。
わが家の現実を思い起こしても一年間に数回しか使わないし、キッチンの引き出しに二〜三個は必ず転がっているプレミアムの缶切りで十分足りているし、忙しく切るだけの道具ですから」 「もちろん、一般の商品と比べて簡単にルンルン気分で缶切りができると、拡大解釈したうえでのコンセプトとしてなら〈遊ぶ〉とも言えなくもありませんが。
でも、やはり無理があると思いますが…」と。 多少、担当責任者のご機嫌を損ねたかもしれないが、頭で考えた、しかも、自己に都合の良い、片寄った思い込みの企画ほど危険なものはなく、よくよく″足首″を凝視したうえで企画に修正をしておかないと、とんでもない失策を呼ぶものだ(在庫の山……等々)。
会議終了後、伏し目がちに討議を聞いていた参加者のうち、五〜六人がシカツカと私の方に集まってきて言った。 実は、私は移るにあたって、Nに五つの条件を出していた。
「Kさん、私も同意見です(ウンウンとうなずく数人の頭)。 助かりましたよ、あのままスタートしたら、在庫の責任は結局自分達なのですから…」内心、その場で意見を主張すればいいのにと思った。

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